2018年7月5日、コンベンションルームAP秋葉原で株式会社セレスポ主催のトークセッション「パラスポーツ×ビジュアルコミュニケーション」が開催されました。
オリンピックに続いて同じ年に同じ開催地で実施されるパラスポーツ最高峰の国際競技大会、パラリンピック。近年、様々なメディアで耳にする機会が多いと思いますが、パラスポーツを実際に体験したことのある人は少ないのではないでしょうか。2020年には東京パラリンピックが開催されますが、日本は世界に比べて、パラスポーツに対する理解や認識は、まだまだ遅れています。本レポートではトークセッションで語られたパラスポーツの魅力と現状を少しでもたくさんの人々に感じていただくため、内容の一部をお伝えします。
当日は、早めに会場入りされる参加者も多く、開会前から主催、講師の方々も参加者と積極的に交流し、会場内は和やかな雰囲気に。そして、主催の越川延明さん(株式会社セレスポ)による本イベント実施背景についての説明から開幕しました。
ビジュアルの効果とは?
株式会社セレスポはイベントのアクセシビリティの促進に取り組んでいて、越川さんはコミュニケーションにおいて、多くを語るよりも、一枚の絵の効果が大きいと学んだとのこと。そして、体験型イベントは参加人数が限られるということもあり、同じ顔ぶれが多く、パラスポーツの普及はまだ十分ではないと感じたそうです。新規により多くの人々の関心を引くため、ビジュアルを切り口として、パラスポーツの魅力を伝えたい。そんな想いが今回のイベント開催のきっかけであることを越川さんは語りました。
バンクーバー、決勝ゴールを決めた銀メダリスト
最初に登壇されたのは上原大祐さん(パラアイスホッケー選手)。上原さんは二分脊椎という先天性の障がいを持って生まれました。大学2年生でパラアイスホッケーに出会い、2006年トリノパラリンピックに出場。2010年バンクーバーパラリンピックでは、準決勝のカナダ戦で決勝ゴールを決め、銀メダル獲得に貢献しました。引退後、上原さんはNPO法人D-SHiPS32を起ち上げ、障がいのある子ども達がスポーツをする環境づくりをしています。2017年には現役復帰し、2018年の平昌パラリンピックにも出場されました。
2つのキーワード ”日常化”と”自分ごと化”
上原さんは日本のパルスポーツ環境の現状を説明しました。
「日本は地域型でコミュニティが中心であるが、携わった経験のある人のボランティア意識が少しあるくらいが現状です。パラリンピック開催地であった長野県でさえ、ある施設では、パラスポーツへの貸出を断られました。一時のイベントで終わらしてはいけません。日常化を目指していきましょう。」
「一昔前は障がい者スポーツという呼称で、健常者にとっては他人事として扱われていました。相手の立場になって考えてみてください。子供ができて初めて、ベビーカーを押す親の気持ちがわかるようになるのと一緒です。皆さんがこれからパラスポーツを自分ごと化していただけると幸いです。」
道具はパラスポーツのかなめ!
「パラスポーツは用具マネージャーがいるのが特徴。しかし、平昌では、日本チームには用具マネージャーはいませんでした。私は韓国チームの仲のいいマネージャーに用具を直してもらいました。これはフレンドシップの面ではポジティブなことですが、他国に用具について頼るのは恥ずかしいことでした。」と道具を切り口にパラスポーツの課題を述べました。
東京オリンピック・パラリンピックを呼びこんだ写真家
そして、上原さんから越智貴雄さん(写真家)にバトンタッチ。越智さんは、2000年からパラリンピック撮影に携わり、2004年にパラスポーツの魅力を伝えるため「一般社団法人カンパラプレス」を設立。そして、2013年東京オリンピック・パラリンピック招致の最終プレゼンテーションで使用された「跳躍写真」が話題となる等、パラスポーツカメラマンとして長く活動されています。
世界新記録8m47cmの跳躍! 世界で活躍するパラリンピアン
「世界のパラリンピアンを紹介します。」と、冒頭で世界陸上、走り幅跳びで当時の世界記録8m40cm(リオ・デジャネイロ五輪の金メダリストの記録は8m38cm)を叩き出した義足のパラリンピアンのマルクス・レーム選手の紹介。(なんとイベントの2日後に群馬で開催されたジャパンパラ陸上で、マルクス選手は自身の世界新記録を更新!8m47cmを記録しました。)
福祉からスポーツへ
「一昔前のパラスポーツはスポーツというよりは福祉要素としか捉えられていなかった。それは過去と現在の求められる写真の違いにおいても明らかです。」と、越智さんは車椅子テニスの上半身アップのダイナミックな写真を過去にクライアントに提出したところ、却下された経験を語りました。昔は、車椅子の全体が写り、一生懸命さがでている写真が重宝されたとのこと。
そして、本日の目玉、上原さんと越智さんの両者によるトークセッションが始まりました。
個人競技だけども、団体競技!?
まずは両者共通で話題に挙がった道具の話に。
越智さんは様々な道具の写真を披露しました。中でも注目したのは、伴走者とつながるための布ベルト。上原さんは関連して、「競泳では視覚障がいのある人は、触ってもらって、ターンのタイミングをはかります。走り幅飛びでは、飛ぶタイミングは手で叩いて知らせます。信頼関係、チームワークが大事になります。もはや団体競技と言えるのが、面白いところです。」と補足しました。
子供にとって憧れの存在へ
「越智さんの写真をみた人の反響はどうですか。」という質問には、「特に嬉しかった反応は、切断ヴィーナスという義足の女性をモデルにした写真集を見た小さな女の子が将来モデルになりたいと思ってくれたこと。義足は隠すものではない、メガネのようなもので、不便だが不幸ではないことが伝わり、ヴィーナスが憧れの存在になれたのだと思います。その後、日本防災協会のポスターのため、パラスポーツ選手の撮影依頼がありました。切断ヴィーナスをきっかけに、パラスポーツの見方を変えられました。」と越智さんは活動の成果を述べました。
障がいは個性ではない
次に、越智さんとパナソニックのコラボ動画を紹介。出演者の村上清加さんが、「障害は個性というより事実。障がいがあることは変えることができないが、マイナスではない。障がいがあっても楽しく充実できることを皆に知ってもらいたい。」と語る部分に、上原さんは共感し、身体的な状態を個性と呼ぶのでなく、その人ならではの面白いところを個性と呼んで欲しいと言っていたことに参加者は納得していました。「よく”障がい”ってなんですかと聞かれるが、知れば知るほど、答えられなくなりました。反面、人の個性が見えてきました。普通のことだけれども、それが楽しいです。」という越智さんの言葉も印象的でした。
パラ×絵 “グラフィックレコーディング”
トークセッションが終了したところで、越川さんは、学生3人の協力で、グラフィックレコーディングという試みが実施されていたことを明かし、会場の後ろに張り出した絵を披露しました。最後に、越川さんが、こういったイベントを続けていきたいと今後の抱負を語ったところで閉会となりました。
閉会後は、講師の上原さん、越智さんも参加してのネットワーキングの時間がありました。会場の後方では切断ヴィーナスの販売や、越智さんの写真が展示されていました。また、参加者同士で情報交換したり、今日のイベントの感想を述べていたりと交流がありました。
私は実際に参加するまでは、パラスポーツのことを、どこか他人事のように考えていましたが、公聴後は、パラスポーツの現状や、アスリートの想いを知り、共感することで、見方が変わりました。ほぼ活字で伝えてきましたが、本トークセッションのテーマの通り、やはり実際に会場を訪れ、写真や動画に触れながら、自分の経験談にすると理解度が倍増すると思います。今現在、パラスポーツに少しでも興味がある方は、是非、パラスポーツをプレイ、観戦、または関連するイベントに参加して、自分ごと化してみてはいかがでしょうか。
株式会社セレスポ主催のトークセッション「パラスポーツ×ビジュアルコミュニケーション」は、イベントレジストのイベント管理プラットフォームをご利用いただいています。イベントレジストに関する詳しい資料はこちらから。