2015年3月26日、「大学の知はイノベーションに有用なのか」というテーマで第3回未来予報会議が開催されました。未来予報会議とは「テクノロジーは日本を救うのか」というテーマでパネルディスカッションを行うイベントです。「課題先進国」と言われる日本において、テクノロジーによるイノベーションがもたらす意義は大きく、そういった時代に私たちはいかにあるべきか、全6回を通して考えていこうというのがこのイベントの主旨です。
第3回は「大学の知はイノベーションに有用なのか」と題し、東京大学産学連携本部助教 菅原岳人氏、経営共創基盤パートナー 塩野誠氏、大学発ベンチャー育成実績を多数有するBeyond Next Ventures代表取締役 伊藤毅氏の三方を交えて議論が行われました。
大学側、企業側双方の視点からの「産学連携」の現状/理想とは?
2012年12月 東大発のロボットベンチャーSCHAFTがGoogleに買収されたニュースは記憶に新しいかと思います。「大学の知」をイノベーションの種と捉え大きなビジネスに育てていく、正にその最前線である「産学連携」の現場。そこで活躍される今回のパネリストの方々です。
IBMにてコンサルタントを経て東京大学産学連携本部助教、菅原岳人氏
『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』著者、塩野誠氏
CYBERDYNE、スパイバーなど大学発ベンチャーの支援を手掛ける、伊藤毅氏
それぞれのお立場(大学の内側と外側)から理想的な「産学連携」を議論するにあたって、まず「大学と企業にとってどんな相手が魅力的なのか?」という点で意見が交わされました。
- 大学の研究は一見するとわかりづらいものも多く、その価値を翻訳してくれるような、先生の持つビジョンや技術を深く理解しビジネス側に伝えていける立場としてVCは大学側にとっては魅力的な相手ではないか(伊藤氏)
- 大学側にとって、研究者にとって、の二つの視点がある。前者は教育機関という立場から研究を長期的に一緒に進めていけるかどうかを見ており、後者は研究者の目的によってさまざま。例えば実用化したい、論文が書きたい、研究費が欲しいなど。企業側がその点を理解している方がスムーズに行きやすい。(菅原氏)
- 研究者はドナルド・ストークスが論じる「パスツールの象限(→こちらP.16に詳しい)」に分類される。どの類型にあてはまるかで何を動機付けすべきかが変わってくる。大企業側は目的なく何かいいものないかな、研究者側は何か組んだらいいことあるかな、というスタンスでお互い組んでしまっているのが産学連携の現状。(塩野氏)
ファシリテーターの吉沢氏が産学連携の構造の点から話を掘り下げました。産業界の方の構造が粗すぎるのではないか、つまり、大学の研究をビジネスに結びつける際に、受け手の方も研究開発部門であり、ビジネスの“現場”の人間がいないというのが、イノベーションの生まれにくいポイントではないかと3人に投げかけました。
自身の経験上、構造に問題があるのでは?と切り込むファシリテーター吉沢氏
お互いが明確に目的意識を持つことが大事だったと過去の経験を振り返るファシリテーター岡島氏
- (数々の成功例を生んでいるコツがあるのか?という問いかけに)自分が関わってきた経験でいうと、研究開発同士だと共同研究という形で終わり中々実用化しづらい、一方でビジネス寄りの人で実際に研究室の中に入っていける人は少なく、やはり起業をサポートする人材が必要。(伊藤氏)
- 産業界の方でいうと、インタープリターできる人が誰なのか?がポイント。海外だとPh.D.持っていてビジネス経験があるという人材がVCに普通にいたりするが、日本だと横断的にビジネス開発をした人がアサインされることは少ないのかなという印象。(菅原氏)
そういった、技術もわかって産業界とつなぐ役割(=インタープリター、コネクター)を日本ではポスドクが担えばいいのではないかと塩野氏が話を展開。大学側が抱える課題でもある“ポスドクの就職事情”の解決策のひとつとして、彼らをビジネスマンに育成するということを正に菅原氏は始めているそうです。
大学と企業が一緒にやっていくにあたり、効果的な関わり方、パッションを上げるポイントとは?
伊藤氏は経験上、大学側は研究、ビジネス側はビジネスといった形でお互いのフィールドで話そうとするため、間に入る人がうまくお互いを歩み寄らせることが大事でありコツだといいます。
- 企業側も最低限研究のポイントを抑えてくること。論文くらい読んでこようよ、学会でどういう立場でどういう主流・亜流があってどんな主張をしてどんな技術なのかというのは最低限。(塩野氏)
- 例えるなら、先生に対してちゃんと宿題やってきた子という感覚で接することがコツで、歩み寄れるきっかけになる。(菅原氏)
その他にも、
- アカデミアの人とビジネスパーソンの時間軸が違うことを理解すること。学術側は10、20年スパン、ビジネス側は2、3年スパンで考えている。(塩野氏)
- 大学側の相手が研究成果を実用化したいと考えているかどうか。実用化しようと考えていない場合もある。若い研究者でも早期に実用化したいと思っているケースも多くなってきている。(菅原氏)
などが挙げられました。これらのポイントを踏まえ、起業まで漕ぎ着けたとしても、大学の先生がそのまま社長業を務めることが必ずしもいいかというと現状でうまくいっているのはレアケースだと伊藤氏は言います。Googleのセルゲイ・ブリンとエリック・シュミットのような体制が理想形の一つであるとしながらも、日本にはシュミットのようなプロの経営者が不足しているので、未熟な経営者であっても周りがサポートして、ビジネスの面からも育てていくということが現実的だそうです。
途中参加者からの質問も交えながら、お金との関わり方について話が及びました。やはり研究でお金を儲けること自体を賤しいとする空気感も事実あり、それを払拭していくためには、例えば研究が実用化されることによって研究者としての地位が向上するとか、最終的に産学連携の成果として大学側に還元されるということを繰り返していくしかないと菅原氏は答えていました。そのためにも、研究者にとってもクリアなマネタイズ方法としてライセンスビジネスというのは有効だそうです。(※1999年に「産学活力再生特別措置法」が施行され第30条が日本版バイドール法にあたるとされ、政府の資金援助を受けて開発に成功した研究の知的財産の権利を、大学・研究者側にも帰属させることができるようになり、ライセンスビジネスが可能になった。)
会場からも次々と質問があがり、その答えはかなり具体的なものに。
―コネクターの役割を、最近増えてきたURA(University Research Administrator)が担うことに期待はあるのか?
期待としては非常にあるが、URAという職種が日本では非常に新しく、まだまだこれから経験値を溜めていかなければならないフェーズ。しかも大学の中でURAを有用な人材に育てるための設計ができる人もそもそも非常に少ないのが現状、と菅原氏は説明しました。URAに向いている人の特長として「気持ちが若い」「コミュニケーション能力が高い」「先生の研究に熱心になれる」「違う世界を行ったり来たりするのでかなり柔軟な人」というのはお三方、共通してのご意見。
―異分野でコラボレーションを進める際にビジネスサイドで求められる人材とは?
- 異分野をそれぞれ深く理解して、結びつけるポイントをいかに見極められるかにつきる。(伊藤氏)
- 普段から情報量を一手間かけて増やしているかどうかが異分野をコネクトできるクリエイティビティを発揮できるポイント。(塩野氏)
産学連携はフロンティア。 飛び込むなら今。
- 今この分野に飛び込んで独自の人脈をつくって研究者と組むのも、誰も止める人はいないし、失うものは何もない状態。ここは逆にフロンティアだと思ってもらえたら幸いです。(塩野氏)
- 産学連携は課題だらけ。それだけ期待感がある。これまでに産学連携がイノベーションにつながる例がでてきている。今飛び込めばトップランナーの層に入れます。興味があればぜひ入ってきてほしい。(菅原氏)
- 前職でITベンチャー投資チームから産学連携チームに異動になった時は飛ばされたなと思ったところもあったが、面白いんだとコツコツやっていたら本当に面白くなった。ITの世界には中々ないような技術が大学には転がっている。それだけ魅力のある分野なので、みなさんも飛び込んできてほしい。(伊藤氏)
第3回は「大学の知はイノベーションに有用なのか」というテーマでしたが、お三方のお話をお聞きすれば答えは明白。まさに産学連携の未来を予報していただく会議となりました。フロンティアであればあるほど難しさと面白さは表裏一体、越えていくためには自分の中にしっかりとしたビジョンと、簡単には消えない探究心を持って飛び込むことが大事だと、私たち未来予報研究会は思いました。お話いただき、本当にありがとうございました。
(イベントレジストより)
◆未来予報研究会は『2025年、未来の設定資料集』というテーマで本を制作していらっしゃいます。
変化を起こそうとする起業家や研究者本人たちが持つVISION(未来の世界観)をビジュアル化し海外に発信していくことで、彼らをサポートしてきたいと考えていらっしゃいます。実現させるにあたりKickstarterにて資金を集めるプロジェクトを実施中。支援に興味のある方は以下からご覧ください。
また、次回の第4回未来予報会議 は「ロボットによるイノベーションは本当に可能なのか」をテーマに4/22(水)に開催されます。詳しくはこちらのリンクをご覧ください。