2018年6月28日、アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京にて、株式会社日本経済新聞社主催の「欧州最強!?フランスのスタートアップ事情~ビバテクノロジー報告会」が開催されました。
今、フランスではスタートアップ企業への支援が盛んです。例えば、iPodの生みの親として知られるトニー・ファデルはシリコンバレーからパリに移住し、エンジェル投資家として多額の投資をしています。また、昨年には巨大インキュベーター施設のステーションFが、フランスのテック業界の大物であるグザビエ・ニールにより、パリに設立され、1000社以上のスタートアップ企業がオフィスを構えています。そして、スタートアップ大国を目指すマクロン大統領を中心に、政府が積極的にスタートアップを支援しています。
こうした背景をもとに、2018年5月24日〜5月26日にパリで開催された欧州最大級のスタートアップイベント「ビバテクノロジー」。まだ3回目のイベントであるにも関わらず、3日間で10万人を集めた、今世界で最も熱いこのイベントに参加したかった人々は多いのではないでしょうか。当報告会では、実際にイベントを訪れたスピーカーの方々が各々の体験を共有してくださいました。本レポートでは、その様子の一部をお伝えします。
多くの参加者で席は埋まり、午後7時に会はスタート。
モデレーターの上田敬さん(日本経済新聞社)に紹介され、神田健太郎さん(アクセンチュア株式会社)が登壇。「この会場はスタートアップ、学術系、官公庁、専門家等の方々が集まり、アイデアをアジャイルに作るハブとなることを目的とした場所であり、まさに今日の会場がその縮図です。本日は世界のリアルなテクノロジー事情についての報告会と実際にビバテクノロジーに出展したスタートアップによるピッチの場を設けております。」と主旨を説明しました。
「ボンソワール!」と軽やかな挨拶で最初に登壇したスピーカーは林薫子さん(ビジネスフランス)。フランスのスタートアップエコシステムのネットワークブランドであるフレンチテックについて言及しました。「もともとフランスで才能を磨いた多くの人がシリコンバレーに流れてしまいました。そういった優秀な人材をフランスに戻すために、スタートアップが資金を集めやすくする環境をつくろうと考えたフランス政府は、スタートアップを盛り上げる象徴として、ラベルを付けてまとめ、ブランディングし始めました。それがフレンチテックの始まりです。実際にこれは功を奏し、ラスベガスで行われたCESなどの世界のあらゆるイベントで、その赤いニワトリのラベルが多く見受けられます。」また、フレンチテックの取り組みのひとつとして、海外のスタートアップをフランスのインキュベーターで1年間支援する「フレンチテックチケット」というトライアルが既に2回実施され、選抜されたスタートアップは主にインド、ブラジル、ロシア、中国の企業などで、日本はまだ採択されていないとのこと。ますます活性化されるフィンテックですが、今後の日本のスタートアップの頑張りに期待したいです。
次に登壇されたのは、寺西藍子さん(株式会社アサツーディ・ケイ)。寺西さんから語られたのは、実際に行けなければ感じ得ない現場の様子とリアルな体験談です。「前日には、マクロン大統領主催のテック・フォー・グッドというサミットが行われ、楽天の三木谷さんなど世界のテック業界の著名な人を多く呼び寄せていた。こういったフランス政府の国をあげて取り組む力は目を見張るものがあります。会場は国際色豊かなブースで溢れていたが、中でも盛況だったのはアフリカのブースでした。また、初日と最終日では会場の様子はガラッと様変わり。最終日にファミリーデーを設けることで、子供連れで訪れる家族を多く引き込んでいました。VRやロボティクスの展示も多く、子どもたちが当たり前に最新のテクノロジーに触れる機会が設けられることで、デジタルネイティブならぬテクノロジーネイティブとなる次世代が育つ土壌となっていました。」
では、実際の”LAB”(大企業内スタートアップブース)はどういったものなのでしょうか。寺西さんの解説によると「特徴として、チャレンジという名で、大企業が自身のブースで展示するスタートアップ企業を募集する仕組みになっています。ブランドの未来姿勢、注目分野、選抜されたスタートアップのパーソナリティなど各国のブランディングの違いがみられ、来場者は今後一緒に組んで仕事ができるかなど参考にできます。」
最後に寺西さんは、全体の注目ポイントのひとつとして、主催であるフランスの大手広告企業パブリシスグループを引き合いに、「広告祭に参加しない基本方針を持ち、MRCL(マルセル)というHR活用AIプラットフォームの開発に投資するパブリシスには、自分たちが変わっていかなければならない。という積極的な姿勢が見受けられます。今後の広告代理店は、生き残るために、昔ながらの広告代理業から脱出を図り、よりクリエイティブな方向へとシフトしていくことが推測されます。」と、広告業界の展望を分析しました。
「我々は海外にでる企業のサポート、メンタリングを行っています。」と自社の紹介をしたのは、3人目に登場した西川浩司さん(オレンジジャパン株式会社)。オレンジジャパンは「Orange Fab」というスタートアップアクセラレータープログラムで世界中のスタートアップ企業を支援。初回からプラチナムパートナーとしてビバテクノロジーに自社のブースを出展し、今回は122社のスタートアップ、そのうちOrange Fabで支援している40社がLABを出展したとのこと。「日本企業は3社のみで、同じアジアの韓国よりもビジビリティが低いです。」と西川さんは日本のスタートアップ企業の状況を評しました。
そしてここで、ステージに椅子を並べ、軽快な音楽とともに、登場したのは以下の6名。寺西藍子さん、林薫子さん、川端康夫さん(アクティブビジョン株式会社)、松崎良太さん(きびだんご株式会社)、藤本あゆみさん(Plug and Play Japan株式会社)、西川浩司さん。モデレーターの上田さんの問いかけに、各々が意見を交わしました。
「他のイベントとの比較からビバテクノロジーをみると印象に残ったことはありますか?」
川端さんは「ドイツ最大規模のテック・カンファレンスのTOAは50年後の世界という次の時代を作るスタートアップが中心だが、ビバテックは、政治性があり、3年以内の短期間でお金に結びつけるビジネスがしたい人に向けたものという印象です。アメリカのベンチャー企業は資金を持っていて自分たちでやるというのが多く、ベンチャー企業がバラバラに展示しているイベントはいくらでもあります。普通は大企業がスタートアップとどう向き合うかは難しいが、ビバテクノロジーのように大企業が軒先を貸す形態は非常に新鮮。日本にとってもビジネス提案するには非常に良い場だと思います。」と印象を語りました。これには松崎さんも同意し、「ビバテクノロジーはCESのようなカオス感はなく、大企業はでしゃばっていません。また、文化の香りがあり、ソフトウェアと音楽、アートといったトラディショナルなものと掛け合わさっていると感じました。」と述べました。
「ビバテクノロジーとともにスタートアップの両輪であるステーションFの印象は?」
「中は各企業のカラーでスペースがデコレーションされていて、どこがどこを支援しているかわかりやすいです。駅舎をリノベーションして建てられたので外観がとてもクールで、ここで働きたいと思わせるような場所でした。」と、寺西さんは実際に視察に行った際の経験を共有してくださいました。それを受けて松崎さんは、「ステーションFはフランスのパトロン文化が背景。大富豪個人が起ち上げたステーションF、政府のフレンチテックの取り組み、スタートアップ支援に熱意を持つマクロン大統領。タイミングがよくフランスにとって良いことが起きました。ものすごくダイナミックに噛み合っています。」と語りました。
「日本版のビバテクノロジーがあったらどうですか?」
この質問には、西川さんから「規模が大きくないと厳しいでしょう。日本だけだとそんなに集まらないので、台湾など近隣の国と開催するといいかもしれません。」との意見が出ました。また、共通して話題になったのが言語の問題。フランスでは英語で普通にコミュニケーションをしているが、日本ではイベント通訳が必要なのがネックであり、理解度が違ってくることが障壁として藤本さんからあげられました。完璧主義で対応が遅れがちな日本には、ビバテクノロジーのような、企業が未来を掲示して、その場ですぐに動けるようなスピード感のあるイベントを持ってきたいと今後に期待する意見が出たところで、座談会は終了しました。
そして最後に実際にビバテクノロジーに出展した5社のピッチが行われました。中でも印象的だったのは、音声感情解析技術を持つスタートアップの株式会社Empath。Voice Commerceの課題として、音声データの有効活用と収益化をあげ、マッキンゼー社の調査によると70%のセールスが“感情”によって上げられるのだそうです。実際に、コールセンターにおいて同社の音声感情解析を利用することで約20%の成約率向上に寄与したとのこと。Empathの活用事例は他にもメンタルヘルス、車載AI、ゲーム・VRなど多岐にわたり、UAE連邦内務省とのEmpathを活用した幸福推進事業について基本合意を締結するなど、世界で活躍中の企業のピッチは海外のピッチコンテストで連戦連勝がうなずける内容でした。
他にも、猫の腎不全の初期症状をモニタリングし、早期発見に役立つ「TOLETTA」というヘルスケアIoTサービスを提供する株式会社ハチたま、膀胱のふくらみをセンサーで感知する排泄予測デバイス「D Free」を紹介したトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社や、生産性を上げる左手用のクリエイティブなコントローラー「Orbital 2」を開発した株式会社BRAIN MAGICと興味深いスタートアップが次々と登壇し、参加者はそのバラエティに富むピッチに聴き入っていました。唯一フランスから参加したのはオーディオメーカーのスタートアップDEVIALET(デビアレ)。フランスのオペラ座内に直営店を持つ同社は独特の形をしたスピーカー「ファントム」のデモを実施。低音がよく響き、その良質な音を生で感じ、思わずその場で欲しくなるクールなスピーカーでした。
報告会終了後には、ビバテクノロジーでも振る舞われたフランスのパン屋さんのポールのパンとワインで懇親会。当日の夜にはサッカー日本代表の試合がありましたが、その熱気にも負けないくらいの盛り上がり。会の始めに神田さんが説明されたこの会場の目的のとおり、スピーカーの方々、ピッチに登壇された方々、参加者と様々な人が交流するまさにハブとなっていました。
全体を取材して、興味深かったのは、ほとんどのスピーカーの方がステーションFについて言及していたこと。イベントの報告だけではなく、周辺のイノベーション環境についても随所に語られ、参加者は実際に現場に行かなければ感じられないような気づきや情報を得られたと思います。今やフランスはシリコンバレーに肩を並べる存在になりつつあると感じますが、今回ピッチをしたスタートアップ企業の方々のように、世界で高い評価を受けている日本のスタートアップもあります。日本がこれらの企業を支援する環境を整えることができれば、今後、フランスのように国内のスタートアップを盛り上げることができるかもしれません。
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