未来予報会議とは? 第4回・第3回のイベントレポートもご参考ください。
2015年4月、安倍首相がスタンフォード大学で「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」を発表し、経済産業省が主催するイノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator 2015」が発足。政府がイノベーションに本気を出して関わっていく姿勢が加速しそうなニュースが続き、始まる前の会場からは期待の高まりが伺えました。
今回のパネリストの方々です。
京都大学総合博物館 准教授、経済産業省・産業技術政策課課長補佐、伊賀忍者博物館 顧問…いくつもの肩書きを持つ塩瀬隆之氏。
熟練者の技術をロボットやシステム化する研究をはじめ、元々は人とロボットの関係に興味があったとお話しする塩瀬氏は、通常デザインを行う際に入りづらい観点(障がい者や高齢者等)を巻き込みながらデザインを行う”インクルーシブデザイン”を専門とされています。しかし、東日本大震災をきっかけに、”学ぶ”と”働く”の距離が離れている事に疑問を覚え、「大学から行政(経済産業省)へ」という異例のキャリアの転換をします。現在では、官僚に対するウェアラブルやIoT・3Dプリンター等の勉強会の開催や、デザイン思考・知財戦略・イノベーションを創出する環境整備に関する調査研究を行う傍ら、MESH ProjectやWeMakeといったスタートアッププロジェクトも近い位置でサポートされています。
著書「ビジネスプロデュース戦略」が話題の株式会社ドリームインキュベータ 執行役員 三宅孝之氏。
理系学生ながらも日米半導体協定に関するNHK番組を見て感銘を受け、国をまたいだ交渉事に夢を見て通産省に入られた三宅氏。
ストックオプション制度やエンジェル税制などの制度設計に尽力し、後にエネルギー庁にてAPECでの国際調整を行います。その後、法律改正や独立行政法人の立ち上げなど、経済産業省に6年半在籍されていました。退職後はコンサルティング会社での経験も活かしながら、”外部の目”として行政に対して新たな意見を言うことができるようになり、今でも行政とのお付き合いは多いそうです。
90年代からITベンチャーと共に歩んでおり“霞ヶ関にいながらIT界隈とも非常に距離が近い”内閣官房 参事官 村上敬亮氏。
1990年、湾岸戦争最中に通産省に入り危機管理業務を行った後に、IT・ソフトウェアベンチャー界隈でファンドの立ち上げや調達、著作権条約交渉を行っており、90年代のITベンチャーは7〜8割知り合いだと話す村上氏。2000年度からはじまった多くの優秀なIT人材を排出し続けている”未踏事業”の創設、クールジャパンの立ち上げ、チームマイナス25%の国際交渉などを行った後に再生可能エネルギー振興を担当。現在では、内閣官房、まち・ひと・しごと創生本部に出向し、地方創生の仕事をおこなっています。
もともと経済産業省出身ということもあり、いつも以上にファシリテーションに熱が入るインクルージョン・ジャパン株式会社 陶山氏
当日のアジェンダの一つ目は「政府はイノベーションに関わるべきか」。いきなり最初からフルスピードで進みます。
意志と行動力を持って時代を作ってきた登壇者の3名は、一般的に想像する“政府側の人間”としては特異な印象…まさに”イノベーター”らしさを感じました。
DMM.make AKIBAにて普段からイノベーターに囲まれている岩淵技術商事株式会社 岡島氏。真剣な眼差しで議論に参加します。
次のトピック「政府ができること できないこと(得意なこと 苦手なこと)」の議論の中からは、現状の政府が抱える課題が浮き彫りにされました。
政府の関わり方によっては大きくイノベーションを加速させられるものの、なかなかうまくいかない実状がある事がわかったところで、会場からは「政府が加速させるイノベーションは0から1なのか、それとも1から1000なのか?」と質問があがりました。
村上氏は、政府が加速させるイノベーションは1を1000にするものを選択する場合がほとんどであるが、唯一”軍事”は例外だと語ります。米国DARPAの先見性は周知の通りですし、戦車や潜水艦など日本の優れた軍事技術は、ベンチャー企業であろうと国立研究所であろうと国防省が調達を行っているそうです。
会場には政府関係者だけでなく、多くのイノベーターも参加されていました。
最後に「イノベーターはどのように政府(官僚)とつきあえばいいのか?」という議論が行われました。
いつも以上に登壇者と参加者のキャッチボールが多かった第五回未来予報会議。
日本の中でもイノベーターに近い政府(元 も含め)の3名のセッションから見えてきた「イノベーターと政府の関わり方」は、お互いが命をかけるほど本気でありながら尊重をし合える関係の中で、得意・不得意分野とお互いの役割を認識しながらも、共に描ける理想像を持ちながら、一緒に未来を作っていける関係性をどれだけ構築できるかがキーになっていることがわかりました。
現在のままではいけない!イノベーションを起こそう!と立ち上がる人達が多くなる一方で、その”本気度”が問われていく。これから更にその切磋琢磨の場が強くなっていけば、社会は次のフェーズに更新できるかもしれないと思う一方で、イノベーション自体がバズワードに終わってしまう…そんな悲しい未来もあるかもしれません。「ビジョンを持って未来をつくる人を増やし・つなげていく」という未来予報のミッションの重たさと重要さを肌で感じました。
ご登壇いただきました先生、ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました!