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[イベントレポート] 第5回 未来予報会議 「政府はイノベーションに関わるべきか」

作成者: 未来予報研究会 曽我浩太郎|15/10/02 6:41

2015年5月28日、「政府はイノベーションに関わるべきか」というテーマで第5回未来予報会議が開催されました。

未来予報会議とは? 第4回第3回のイベントレポートもご参考ください。

 

2015年4月、安倍首相がスタンフォード大学で「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」を発表し、経済産業省が主催するイノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator 2015」が発足。政府がイノベーションに本気を出して関わっていく姿勢が加速しそうなニュースが続き、始まる前の会場からは期待の高まりが伺えました。

今回のパネリストの方々です。

 

京都大学総合博物館 准教授、経済産業省・産業技術政策課課長補佐、伊賀忍者博物館 顧問…いくつもの肩書きを持つ塩瀬隆之氏。

熟練者の技術をロボットやシステム化する研究をはじめ、元々は人とロボットの関係に興味があったとお話しする塩瀬氏は、通常デザインを行う際に入りづらい観点(障がい者や高齢者等)を巻き込みながらデザインを行う”インクルーシブデザイン”を専門とされています。しかし、東日本大震災をきっかけに、”学ぶ”と”働く”の距離が離れている事に疑問を覚え、「大学から行政(経済産業省)へ」という異例のキャリアの転換をします。現在では、官僚に対するウェアラブルやIoT・3Dプリンター等の勉強会の開催や、デザイン思考・知財戦略・イノベーションを創出する環境整備に関する調査研究を行う傍ら、MESH ProjectWeMakeといったスタートアッププロジェクトも近い位置でサポートされています。

 

著書「ビジネスプロデュース戦略」が話題の株式会社ドリームインキュベータ 執行役員 三宅孝之氏。

理系学生ながらも日米半導体協定に関するNHK番組を見て感銘を受け、国をまたいだ交渉事に夢を見て通産省に入られた三宅氏。

ストックオプション制度やエンジェル税制などの制度設計に尽力し、後にエネルギー庁にてAPECでの国際調整を行います。その後、法律改正や独立行政法人の立ち上げなど、経済産業省に6年半在籍されていました。退職後はコンサルティング会社での経験も活かしながら、”外部の目”として行政に対して新たな意見を言うことができるようになり、今でも行政とのお付き合いは多いそうです。

 

90年代からITベンチャーと共に歩んでおり“霞ヶ関にいながらIT界隈とも非常に距離が近い”内閣官房 参事官 村上敬亮氏。

1990年、湾岸戦争最中に通産省に入り危機管理業務を行った後に、IT・ソフトウェアベンチャー界隈でファンドの立ち上げや調達、著作権条約交渉を行っており、90年代のITベンチャーは7〜8割知り合いだと話す村上氏。2000年度からはじまった多くの優秀なIT人材を排出し続けている”未踏事業”の創設、クールジャパンの立ち上げ、チームマイナス25%の国際交渉などを行った後に再生可能エネルギー振興を担当。現在では、内閣官房、まち・ひと・しごと創生本部に出向し、地方創生の仕事をおこなっています。 

 

「果たして、政府はイノベーションに関わるべきか」
— 関わるべきだが、超えるべき壁が多数存在するのも事実…

もともと経済産業省出身ということもあり、いつも以上にファシリテーションに熱が入るインクルージョン・ジャパン株式会社 陶山氏 

当日のアジェンダの一つ目は「政府はイノベーションに関わるべきか」。いきなり最初からフルスピードで進みます。

  • 政府の人間は、全体を把握して民間の間を取り持つプロデューサーとしてイノベーションに関わるべき。大企業同士が連携するファンドの立ち上げや、自動運転車をはじめとする実証実験フィールドの準備・規制緩和等、政府の人間しかできない事はたくさんある。(三宅氏)
  • 関わるべきではあるが、2つの違和感がある。1つ目は政府側の人的リソースの欠如とスピード感に関して、一般的に考えられている実態と乖離しているという事。条文一つ変えることは、何かの物事を作る以上の時間がかかることも事実としてある。2つ目は、大学と政府がお互いに求めている役割認識の不一致。大学は研究を追求する場所であり社会への還元が第一目的ではないという認識に対し、政府は大学に対してイノベーションを求めている。(塩瀬氏)
  • 本気で命をはるレベルの奴がいるならば関わるべき。それくらいの人間がいないのであれば、関わるべきではない”という結論。(村上氏)

意志と行動力を持って時代を作ってきた登壇者の3名は、一般的に想像する“政府側の人間”としては特異な印象…まさに”イノベーター”らしさを感じました。

 

規制緩和だけでなく規制を作ることでビジネスが発展する事もある。重要なのは政府の”関わり方”にあり!

DMM.make AKIBAにて普段からイノベーターに囲まれている岩淵技術商事株式会社 岡島氏。真剣な眼差しで議論に参加します。

次のトピック「政府ができること できないこと(得意なこと 苦手なこと)」の議論の中からは、現状の政府が抱える課題が浮き彫りにされました。

  • 政府が得意な事は「やるっきゃない!という空気を作って民間を追い込む」こと。しかし、追い込み方を間違えている事がしばしばある。現在担当している“地方創生”においては、いかに住民が幸せな生活を続けられるかという地域の課題解決に向けて、単純な「人手不足の解消」ではなく、10年後や20年後を想像しながら「地域の魅力の再発見」の空気感を作っていかなければならないのに、前者のような議論になりがちだ。(村上氏)
  • ドリームインキュベータは「戦略・技術・政策の3つを動かしてイノベーションを起こす、産業を変える」というビジョンで事業を進めているが、政府はその3つの柱において不得意な事がある。戦略分野ではビジネスモデルの理解が少なく、技術分野では技術の重要性や説明の正当性の判断に乏しい。一方で予算組や税制等 “ツール”としての政策に関しては得意分野であるものの、戦略分野の知識欠如によって、政策の“目的”への理解が少なくなってしまっている。環境技術がビジネス化できなかったのは、環境に規制が少なすぎたからとはよく言われていること。(三宅氏)
  • 決定権を持っている人(上司)と情報を持っている人(若手)のバケツリレーがうまくいっていない気がする。一番動ける人が一番のキーパーソンを知らない。決定権を持っている人の情報が古い…などはよくある光景だ。(塩瀬氏)

政府の関わり方によっては大きくイノベーションを加速させられるものの、なかなかうまくいかない実状がある事がわかったところで、会場からは「政府が加速させるイノベーションは0から1なのか、それとも1から1000なのか?」と質問があがりました。

村上氏は、政府が加速させるイノベーションは1を1000にするものを選択する場合がほとんどであるが、唯一”軍事”は例外だと語ります。米国DARPAの先見性は周知の通りですし、戦車や潜水艦など日本の優れた軍事技術は、ベンチャー企業であろうと国立研究所であろうと国防省が調達を行っているそうです。

 

果たして、イノベーターはどのように政府(官僚)とつきあうべきなのか?

 

会場には政府関係者だけでなく、多くのイノベーターも参加されていました。

最後に「イノベーターはどのように政府(官僚)とつきあえばいいのか?」という議論が行われました。

  • 世間で言われているイノベーションと政府で言われているイノベーションは別物だと考えた方が良い。役所、大学、企業の間で、そこにいる人が見なければいけない景色が違う。その前提を忘れて責任転嫁しあう関係は誰も望んでいない。しっかりとそのズレを議論して認識した上で、仲間になっていければ良いと思う。(塩瀬氏)
  • ”イノベーターVS政府”という構図はよく言われることだが本当にそれは良くない。お互い共通に考えられる「理想の世界」を描いた上で議論するのが、イノベーターが政府とつきあわなければならない状況の時のノウハウです。(三宅氏)
  • イノベーター側から付き合うことはしなくていい。ビジョナリスト(イノベーター)の方から近づくのではなく、そのイノベーターと付き合いたい!という政府の人間が近づくようでないと、良い事は起こらない。愛情をもって接して欲しい。(村上氏)

 

いつも以上に登壇者と参加者のキャッチボールが多かった第五回未来予報会議。
日本の中でもイノベーターに近い政府(元 も含め)の3名のセッションから見えてきた「イノベーターと政府の関わり方」は、お互いが命をかけるほど本気でありながら尊重をし合える関係の中で、得意・不得意分野とお互いの役割を認識しながらも、共に描ける理想像を持ちながら、一緒に未来を作っていける関係性をどれだけ構築できるかがキーになっていることがわかりました。

現在のままではいけない!イノベーションを起こそう!と立ち上がる人達が多くなる一方で、その”本気度”が問われていく。これから更にその切磋琢磨の場が強くなっていけば、社会は次のフェーズに更新できるかもしれないと思う一方で、イノベーション自体がバズワードに終わってしまう…そんな悲しい未来もあるかもしれません。「ビジョンを持って未来をつくる人を増やし・つなげていく」という未来予報のミッションの重たさと重要さを肌で感じました。


ご登壇いただきました先生、ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました!