第4回は、株式会社ZMP 谷口恒氏、株式会社ハイボット 中山岳人氏、アスラテック株式会社 吉崎航氏の三方を交えて議論が行われました。
東大発のロボットベンチャーSCHAFTがGoogleに買収されるなど、最近毎日ネットニュースで「ロボット」関連の見出しを見るようになりました。私たちが勝手に抱く「ロボット」に対する期待と理想。ロボット産業の最前線にいらっしゃるお三方の考えを聞けるとあって、110名ほどの参加申込みがあり、会場は満員となりました。今回のパネリストの方々です。
先般コマツ、ソニーからの増資を発表した株式会社ZMP 代表取締役社長 谷口恒氏。
元々は人型ロボットの開発から始まり、現在は自律移動ロボットを手掛けていらっしゃいます。自動車×ロボット RoboCar®という自動運転開発プラットフォームを提供したり、物流支援ロボットCarriRo(キャリロ)という台車型の荷物運搬ロボットを開発中。今後人手不足になる産業にフォーカスしロボットの導入をすすめておられます。
世界経済フォーラムTechnology Pioneer 2015に選出された株式会社ハイボット 取締役 中山岳人氏。
東京工業大学発ベンチャーとして、独創的な最先端ロボットの開発・販売を行ってらっしゃいます。有名なのは蛇型のロボット。その場でACM-R5の動画を見せていただきました。高い防塵防水性をもっていて、くねくねと動き回る様子はまさに蛇そのものでした。実用的なものを製品化して世の中の役に立たせたせるということをビジョンとして持つ会社です。
ロボット革命実現会議委員も務められたアスラテック株式会社 チーフロボットクリエイター 吉崎航氏。
ロボットのソフトウェアに特化した会社。「V-Sido OS」(ブシドー・オーエス)はリアルタイムにロボットの動きを生成でき、スマートフォンなどの入力デバイスから大まかな指示を出すだけで、ロボットが必要な情報を補完して動かすことができるというロボット制御ソフトウェアを提供しています。ロボットで何ができるか誰もわからないので、まず作ってみようというスピード感に応えていきたいとのこと。
「人ができないこと」からロボットの有効活用がはじまる。人型である必要性はまだない。
「ロボットによるイノベーションは本当に可能なのか」というテーマを深堀するにあたって、まずは、「◆ロボットの価値とは何?」という点で意見が交わされました。
- イノベーションとは問題解決であるとすると、僕らは人やモノが”移動”するところにロボット技術の価値を見出した。高齢者や子どもといった長距離移動が困難な人たちや、まさにモノが動く物流に今後ロボットが深く入り込んでいく産業ではないかと思っている。(谷口氏)
- (広瀬先生と事前に話し、)縁の下の力持ちにロボットがなれるということが価値だと思う。人がやれないこと、本来やるべきことではないことをロボットがやれるというのが価値。(中山氏)
- インターネットが生まれたことによって「情報」に価値がでた。そこに足や手がついてくることで便利になると思っている。例えば鍵が実際に開いているかどうか確認したいとき、手足がついていると便利だなと。ただしそれがどんな形をしているかが中々難しいポイントだと思う。(吉崎氏)
吉崎氏が「ロボットをつくらない」ロボット会社(ハードとしてのロボットはつくらずソフトウェアに特化しているため)としての立場から谷口氏と中山氏と話が散乱してしまわないか不安もあると吐露したところから、話は「◆そもそもロボットってなに?」というロボットの定義についての議論に。
- 点検したいけどできない、やりたいけどやれない、そこの情報をとる方法がない時に、情報さえあれば何か対処できる、それをとってきてくれるインターフェースのこと(中山氏)
- 例えば寝る時に部屋の電気を消したいと考えた時に、①そこから腕が伸びて消してくれるサイバネティクス、②歩いて消しにいってくれるロボティクス、③部屋まるごとセンサーなどに変えてしまうスマートホーム、すべてがロボットだと思う(吉崎氏)
「ロボット」というと日本ではどうしても人型でコミュニケーションするもの、もしくは乗り込むかたちのロボットをすぐにイメージしてしまいます。そこを中山氏は「みんな、ロボットは人型で現れてほしいと思っている。ロボットへの夢、期待感が日本だとアニメの影響が大きい」と指摘しました。どうしても人型のイメージが先行してしまうロボット産業ですが「◆ロボットはビジネスになる」のでしょうか?
ロボット産業をスケールさせるビジネスモデルとは?また他分野でどんなイノベーションが必要なのか?
インクルージョン・ジャパン株式会社 陶山氏(左)、岩淵技術商事株式会社 岡島氏(右)。
二人のファシリテーターによって、ロボットはビジネスになるのだろうか?という深い議論に入っていきます。ロボット産業の最前線にいらっしゃる方々は今どんなビジネスモデルを考えてらっしゃるのでしょうか?
- 産業規模の大きさが、社会的なインパクトに比例する。そもそも産業の大きなところに課題・問題があって、それをロボティクスで解決するべきだと思う。土木建築50兆円、物流20兆円の市場規模を考えると、産業ロボットでも6000億円なのでまだまだ市場開拓の余地がある。IT業界の人たちが興味を持つようなものを作っていくことでスケールするんじゃないかと考えている。すなわち新しい“産業をつくる”ということ。(谷口氏)
- ロボットそのものをつくって売るのか、ソリューションとしてサービスを売っていくのか?の議論があると思う。今は「サービス」として最終的にお客さんに届けることがビジネスになると思っている。ロボットは基本的に渡さずに、いわばコンサルしながらサービスを提供している状態。例えばHiBotはオイル管の傷や詰まりをチェックして、今まで効率の悪かったオイル管の交換などを改善している。ロボットは実際の現場で使われないと改良できない、進化させ続けるためにも今の形は適していると思う。(中山氏)
- ロボットそのものではなくてサービスを提供していく方がいいと思う。ただし、どこの業界を攻めていくかという順番が大切。まずは運用などは業者さんがやるタイプのロボット(例えば警備ロボット)からはじまり、かなり後になって人型ロボットが私達のもとにくるのではないだろうか。(吉崎氏)
- 具体的にどんなビジネスモデルでやってらっしゃるのでしょうか?
- ロボタクは配車サービス、CarriRo(台車型ロボ)は物流を自動化するサービス。それぞれ人だけでやっていたのでは今まで取れなかったデータを利用して、更に生産性を上げるようなコンサル業務にもつながる。物流は歩数、歩数はお金に換算できる。(谷口氏)
- BtoBのライセンスビジネス。未来に期待して、試作の段階から関わって数%もらって、量産した時に回収できるようなモデルでやっている。(吉崎氏)
大きく成長が期待される分野ですが、「コスト削減」が第一目的でロボットを導入しようとすると失敗する確率が高いとのお話がでました。中山氏は「ロボットは初期コストがかかる。将来を見据えている大きな企業でないと体力がもたない。コストダウンのためと導入しようとした方が失敗している事例が多い。」と言います。同じく吉崎氏も、来年コスト削減したいという企業とは組みづらいとおっしゃっていました。
もう一つ興味深い話として、対処療法より「予防」でロボットを利用するという新しい動きについて説明していただきました。中山氏によると、「病気になってから対処するよりも、病気を予防してずっと健康でいる方が長期的に見てコストが安い。予防の考え方は情報社会になってから生まれている。それと同じ考えで、ロボットが何か起こる前に予防/メンテナンスしてくれるという分野には期待感があり、投資がつきやすくなっている」とのこと。
こうしたロボットが加速度的に広がり、もっとハイスピードで開発されるためには、他分野でのイノベーションが必要だと言います。
- 複雑な機械は人の手に渡るまでに時間がかかる。新しい価値をつくりだすためにはITと繋がっていくのが必須であり、それを繋げるのが人工知能。センサーと繋がって他にない価値を生み出せるか?というのが重要になってくる。(谷口氏)
- 無線の技術がもっと進化し、そして規制緩和されてほしい。日本で許されている範囲、通信に対しての規制が厳しすぎる。ロボットを制御するための通信技術で今困っている状態。やはり時代とともに法も一緒に変わっていってくれないと、足枷がいっぱいある状態では進みも遅くなってしまう。(中山氏)
- 良いアクチュエータを誰か開発してくれないのか期待している。ただしそれなりの部品は揃っていて、それなりのロボットをつくることはできる状態ではある。あとはうまいビジネスモデルさえあれば…というだけかもしれない。(吉崎氏)
- 他にもロボット開発における足枷はありますか?
- ロボットがイノベーションするためには人間が受け入れる体制に変わらないとだめだと思う。ロボットだけが進化してくれると思いがち。だからすべてが古いレギュレーションのままで、時代に合っていない。電波、熱、バッテリー…これら全部の規制を守ろうとするとだんだん“おもちゃ”になってしまう。しかもサイズも大きくなってしまう。(中山氏)
- 自動運転についても最初は抵抗があったがここ何年かで現実的になってきた。みんなが欲しいといえば社会が変わる。産業が大きく確実に必要としているところを狙う方がいい。社会的なインパクトが重要。(谷口氏)
会場からも質問が飛び交いました。
- ロボット業界では中国は迫ってきている実感はありますか?
- 中国は人型ロボットにはまだ手を出さない。しかしドローンはIT機器のひとつだとして開発を進めてしまう。ロボットカーも実は密かに開発を進めている。Future Challengeというイベントで北京理工大学の学生が自走カーをつくって実際に公道を走らせたりする。産業になりそうなロボットについて確実に中国は抑えてきている。(谷口氏)
- 技術的や人材的に開発できないことはないはず。ただ今すぐお金になることをやろうとするのでロボットはもうちょっと先だという意識があるのでは。アメリカ、もちろん日本にも中国からの優秀な留学生が来て研究室で学んで自国に帰っていっている。なのでロボットがつくれないということはない。本気になったら国を挙げて応援するので開発は速いでしょう。(中山氏)
- 研究分野はかなり中国は強い。すぐお金になる産業化しやすいものから攻めていく傾向があるので、彼らが人型に手を出してないということはまだビジネスにならないと考えているのはないか。(吉崎氏)
- どんな通信技術が気になっていますか?
- ロボット動かすための通信=長距離使える、高精細のデータしかも遠い場所から送れる、というのが必要。例えば鉄板の向こう側からデータを取れるとか。(中山氏)
- 人の強みとは何でしょう?人でなきゃできないこととは?
- 分野によるところが大きいですが、作業が遅くてもいいから隣に人がいて作業できるレベルのものを欲しがっている流れがある。(吉崎氏)
ベースは人ありきということで、お互いに補えあえるパートナー的な存在が今求められているのかもしれません。
- 人に与えるコミュニケーションにおいてのマイナスプラス面
- スマホのおかげで、もはや自宅以外の番号覚えてない。そう考えると電話番号以外のことも忘れていくんだろうなと思う。それも受け入れていくことがロボットと共生したといえるのはないか(吉崎氏)
- 今の仕事はロボットが代わりにやっていくことになるのでは?その先を考えるのが人間の仕事になってくるのではないか。そう考えるとロボットが今を生きているという感覚にもなってくる。面白い。(中山氏)
- 衰えるから逆に発達させようとする。どんどんモノをつくっていくのが人。そこに英知をつぎこんでいけばいいと思う。(谷口氏)
- 産業ロボットではなく人が楽しむためのコミュニケーションロボットの可能性についてはどうお考えですか?
- おもちゃとしてのロボットは自分も興味がある。実際に1億円のクラタスをつくった。おもちゃとしての高額すぎるロボット。しかしあれはロボットではないという言われ方を今後するかもしれない。(吉崎氏)
- 蛇型のロボットもお金持ちがプールに観賞用として欲しいと言ってくれる。そういう使い方をしてくれるのも嬉しい。(中山氏)
- エンターテイメントロボットは難しい。なぜなら最初面白いと思って買うんだけど「継続」ができない。簡単に見えて非常に難しい、人を飽きさせないというのは難しい。しかし、今はディープラーニング、画像解析技術、更にはクラウド技術がある、だからこれからやるのはいいかもしれない。今なら人の気持ちを変えるということをロボットできるかもしれないと思っている。(谷口氏)
1時間半におよぶ「ロボットによるイノベーションは本当に可能なのか」の濃いセッションから見えてきたのは、ロボット開発を支える様々なテクノロジーが日々進化する中で、私たち自身の意識も変わらなければならない、社会全体として対応していかなければ、ロボットによる真のイノベーションは起きないということでした。かつて私たちが夢を膨らませた人型ロボットとの未来は、形を変えて現在進行形で私たちとの共生が始まっている、そんなことを未来予報研究会では感じました。ご登壇いただきまして本当にありがとうございました。
満員御礼。ご来場いただいた皆様もありがとうございました。
次回の第5回未来予報会議 は「政府はイノベーションに関わるべきか」をテーマに5/28(木)に開催されます。詳しくはこちらのリンクをご覧ください。